【最新】ガバメントクラウドとは?
2025年度末までの対応や手順、自治体の導入メリットを解説

【最新】ガバメントクラウドとは?2025年度末までの対応や手順、自治体の導入メリットを解説

近年、行政のデジタル化が急速に進んでいます。その中核を担うのが、ガバメントクラウドです。

この記事では、ガバメントクラウドの概要から、自治体や個人にとってのメリット、接続サービス、2025年度末までの対応や手順をわかりやすく解説します。

1. ガバメントクラウドとは

「ガバメントクラウド」とは、国や地方自治体が業務で使用する情報システムを統一されたクラウド環境で運用する仕組みです。「クラウド」とは、データやソフトウェア、プログラムを動かすためのリソースをインターネット上で利用する形態を指します。

クラウドには、ユーザーと事業者の責任区分などに応じて、IaaSやPaaS、SaaSなどの種類があります。詳細は下記の記事をご参照ください。

ガバメントクラウドは、地方自治体の情報システムを標準化・共通化することで行政サービスの効率化と住民サービスの向上を実現する重要な取り組みです。政府は2025年度末までに、すべての自治体の基幹業務システムを、標準化基準に適合したガバメントクラウドに移行することを目指しています。

1.1. ガバメントクラウド導入の背景

行政のデジタル化を推進するなかで大きな転換点となったのが、2018年に政府から発表されたデジタル・ガバメント実行計画です。
それまでは各行政機関が独自のシステムを構築・運用していたため、データ連携や互換性、運用コスト、セキュリティ対策など、さまざまな課題が浮き彫りになっていました。これらの課題を解決するため、統一された基盤としてガバメントクラウドの取り組みが始まっています。

具体的な取り組みは、デジタル庁のサイトで公開されています。

1.2. 自治体クラウドとガバメントクラウドの違い

自治体クラウドは、複数の自治体が共同でクラウドサービスを利用する仕組みです。関連する自治体同士がクラウドサービスを共同利用することで、データ連携を強化できたり、費用・運用負担を分割できたりするメリットがあります。

一方、ガバメントクラウドは政府が主導して構築・運用する全国統一の基盤です。構築・運用の主体が政府である点、全自治体が利用できる点が自治体クラウドとの大きな違いです。

2. ガバメントクラウドの仕組み

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ガバメントクラウドの基盤のうえには、各行政機関が基幹業務で利用できる標準アプリが構築されています。標準アプリは複数のアプリ開発事業者が構築する仕様となっているため、特定の事業者に偏らず、民間事業者の競争環境を維持する仕組みで構築されています。

各自治体は、整備された標準アプリケーションを利用することで、ハードウェアやOS、ミドルウェア、アプリなどを管理・運用する手間が不要になります。

3. ガバメントクラウドが実現した場合のメリット

政府は2025年度末までにガバメントクラウドの実現を目指していますが、実現した場合、どのようなメリットが得られるのでしょうか。自治体と、自治体のサービスを受ける個人、双方のメリットを解説します。

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3.1. 自治体としてのメリット

運用コストを削減できる

ガバメントクラウドを活用すれば、基幹業務に必要なアプリケーションを運用コストを削減しながら利用できます。
これまでは各自治体が個別に構築・運用をおこなってきましたが、ガバメントクラウドを利用することで複数の自治体で共同利用するため、トータルコストが抑えられ、自治体ごとのコスト負担が軽減されます。ガバメントクラウド上で利用するアプリケーションは各自治体で選べるため、民間事業者の競争によるコスト削減効果も期待されています。

効率的な運用と柔軟な拡張が可能になる

ガバメントクラウドには、さまざまな業務で活用できるアプリが整備されています。ニーズの変化で新しいサービスを展開したい場合もスムーズにアプリケーションを導入でき、効率的に運用できます。基盤が統一されているため、他自治体の好事例を取り入れる際に、システム環境面での阻害要因がなくなる点も大きなメリットです。

データ連携が円滑になる

ガバメントクラウドは全国の自治体が共同で利用するサービスです。統一した基盤上でデータをやり取りできるため、自治体内の組織間はもちろん、他の自治体とも柔軟にデータ連携できるようになります。自治体ごとのデータ形式やフォーマットの違いを変換する手間がなくなり、事務処理や組織横断的なデータ分析の効率化につながります。

管理負担を軽減できる

近年、サイバー攻撃はますます高度化・巧妙化しており、個人情報を多く保持している自治体では、サイバー攻撃対策の負担がますます大きくなっています。その点、ガバメントクラウドであれば、政府共通のクラウド基盤全体でセキュリティ対策や運用監視が講じられるため、各自治体が個別で対応する負担が軽減されます。政府基準で対策がおこなわれるため、セキュリティレベルの向上にもつながるでしょう。

また、BCP対策の観点でも、バックアップを統一した仕組みで取得できるなど、対策にかかる負担の軽減につながります。

BCP対策については以下の記事で詳しく解説しています。

3.2. 利用者としてのメリット

オンライン手続きにより利便性が向上する

これまでの自治体のサービスは、同じ手続きでも、地域によって電子申請に対応しているかどうかの差がありました。ガバメントクラウドが実現すれば、各自治体が標準的なサービスを展開しやすくなるため、手続きにかかる手間や時間の削減が期待できるでしょう。

また、各自治体で連携がしやすくなることで、引越しにおける転入・転出届のような自治体をまたぐ手続きを纏めておこなえるなど、利用者としても利便性が高まる可能性があります。

セキュリティ対策により安心して利用できる

自治体には、サービス提供に必要となるさまざまな個人情報が保管されています。個人情報を預ける側とすれば、漏洩に不安を感じることもあるでしょう。その点、ガバメントクラウドが実現すれば、全自治体で最新のセキュリティ対策がおこなわれます。データの暗号化や厳格なアクセス制御など、個人情報の保護が強化されるため、より安心してサービスを利用できるようになります。

4. ガバメントクラウド接続サービスとは?

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ガバメントクラウド接続サービスとは、自治体とガバメントクラウドを安全につなぐための専用の通信回線です。

ガバメントクラウドを利用する場合、自治体の拠点、ガバメントクラウド接続拠点(データーセンター)、ガバメントクラウドの3つの拠点をつなぐ必要があります。
自治体の拠点とガバメントクラウド接続拠点をつなぐ回線は「拠点接続サービス」、ガバメントクラウド接続拠点とガバメントクラウドをつなぐ回線は「クラウド接続サービス」であり、ガバメントクラウドを利用する場合はこの2つの回線が必要になります。

この2つの回線をまとめて1つのサービスとして提供するのが、ガバメントクラウド接続サービスです。

4.1. 対象クラウドサービス

ガバメントクラウドは、政府が公募によって決定した事業者のクラウド上に構築されます。現在は以下の5つのクラウドサービスが対象です。

  • Amazon Web Services(AWS)
  • Google Cloud Platform(GCP)
  • Microsoft Azure
  • Oracle Cloud Infrastructure(OCI)
  • さくらのクラウド

ガバメントクラウドは、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)の要件を満たすクラウドサービスから選定されます。さくらのクラウドは2023年11月28日に新しく選定され、ガバメントクラウドにおける初の国産クラウドサービスとして注目を集めています。

4.2. 接続サービスの主な要件

デジタル庁が発表した、「地方公共団体情報システムのガバメントクラウドの利用に関する基準 【第1.0版】」には、ガバメントクラウド接続サービスの要件が記載されています。主な要件を以下にまとめました。

【拠点接続サービスの要件】

  • 帯域確保型の回線があり、最大1Gbpsまで複数の帯域を選択可能であること
  • 2回線での冗長構成が可能であること
  • Webブラウザから契約内容の参照・変更や回線利用状況などの確認ができること
  • サポートデスクが24時間365日の電話問い合わせに対応していること
  • 料金月単位で稼働率99.99%以上、平均遅延50m秒以内のSLAが定義され、SLAを満たさない場合の補填が定義されていること

【クラウド接続サービスの要件】

  • 最大1Gbpsまで複数の帯域を選択可能であること
  • 東日本・西日本で独立したサービスがあり、被災時の冗長設計が可能であること
  • 稼働率99.99%以上のSLAが定義されている

5. 必見!2025年度末までの「ガバメントクラウド移行」と現状

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政府は2025年度末までのガバメントクラウド実現を目指していますが、現在の移行状況はどうなっているのでしょうか。移行計画の内容と現状を解説します。

5.1. 目前となった2025年度末への対応

ガバメントクラウドへの移行は、行政業務の効率化やコスト削減を目指すものであり、各自治体は積極的に取り組む必要があります。しかし、2025年度末は目前に迫っており、移行期間の短さや経費負担などの課題もあるため、今まで以上に計画的な準備が求められています。

5.2. 移行のスケジュール

ガバメントクラウドは2020年度から法案提出や仕様策定・調整がはじまり、利用環境の整備や事業者によるシステム開発が進んでいます。現在は各自治体が段階的にシステム移行をおこない、ガバメントクラウドの利用を順次拡大していくフェーズです。2025年度末の移行完了に向けて、政府は自治体の意見を丁寧に聴きながら進める方針です。

5.3. 標準化の対象となる20業務

今回の取り組みでガバメントクラウドへの移行・標準化の対象となるのは、以下の20の基幹業務です。

<住民基本台帳・戸籍関連>

  • 住民基本台帳(住民の氏名・生年月日・住所などの基本情報を管理)
  • 戸籍(戸籍情報や通知業務などの情報を管理)
  • 戸籍の附票(戸籍の附票情報を管理)
  • 国民年金(国民年金資格・受給額などの情報を管理)
  • 選挙人名簿管理(選挙人名簿や投票管理など選挙関連情報を管理)

<税金関連>

  • 固定資産税(固定資産税の賦課徴収関連の情報を管理)
  • 個人住民税(個人住民税の賦課徴収関連の情報を管理)
  • 法人住民税(法人住民税の賦課徴収関連の情報を管理)
  • 軽自動車税(軽自動車税の賦課徴収関連の情報を管理)

<子ども関連>

  • 子ども・子育て支援(教育・保育給付などの情報を管理)
  • 就学(学齢簿や就学支援などの情報を管理)
  • 児童手当(児童手当資格・受給額などの情報を管理)
  • 児童扶養手当(児童扶養手当資格・受給額などの情報を管理)

<国民健康保険関連>

  • 国民健康保険(国民健康保険の資格や適用額などの情報を管理)

<介護・福祉関連>

  • 障害者福祉(障害者手帳や各手当などの情報を管理)
  • 後期高齢者医療(後期高齢者医療の資格や適用額などの情報を管理)
  • 介護保険(介護保険者資格や適用額などの情報を管理)
  • 健康管理(地方自治体での健康相談や予防接種などの情報を管理)

<生活保護>

  • 生活保護(生活保護の資格や受給額などの情報を管理)

<その他>

  • 印鑑登録(印鑑登録証明業務の情報を管理)

5.4. すでにスタートしているガバメントクラウド先行事業

先行事業として、兵庫県神戸市、岡山県倉敷市(香川県高松市、愛媛県松山市と共同)、岩手県盛岡市、千葉県佐倉市、愛媛県宇和島市、長野県須坂市、埼玉県美里町(埼玉県川島町と共同)、京都府笠置町の8つの自治体でガバメントクラウドの活用がスタートしています。(2025年2月28日現在)

各自治体では、住民基本台帳や共通基盤といった影響度の高いシステムの移行、有効なKPIの検証、既存インフラを活用した移行の実証など、全体的な移行に向けた検証も兼ねた取り組みがおこなわれています。詳細は以下をご覧ください。

6. ガバメントクラウドへの移行手順

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ガバメントクラウドへの移行手順は、総務省が発表した、「自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書【第2.0版】」で公開されています。手順は計画立案、システム選定、移行の3つのフェーズに分かれており、段階的に進めることが求められています。資料を確認しながら一つひとつ対応を進めましょう。

作業項目 作業内容
計画立案 推進体制立ち上げ、現行システムの調査、標準仕様との比較、移行計画の作成など
システム選定 ベンダーへの情報提供依頼(RFI)資料作成、RFI実施および結果分析、移行計画の詳細か、予算要求、ベンダー選定、契約・詳細スケジュール確定、特定個人情報保護評価(PIA)など
移行 システム移行時の設定、データ移行、運用テスト・研修、移行システムに合わせた既存環境の設定変更、条例・規則改正など

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詳細は以下の手順書をご覧ください。

7. ガバメントクラウドへの接続はQT PROへご相談ください

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ガバメントクラウドの環境は政府が構築しますが、ガバメントクラウド接続サービスは各自治体で調達を進める必要があります。前述のとおり、ガバメントクラウド接続サービスのおおまかな要件は公開されていますが、実際にどのシステムベンダーやサービスが要件を満たし、かつコストパフォーマンスに優れているかを判断するのは、それぞれの自治体となります。

QT PROでは、拠点とガバメントクラウドを高速・高品質につなぐさまざまなサービスをご提供しています。冗長設計やBCP/DR対策にも対応可能で、お客さまの環境にあわせた設計をご提案します。

ガバメントクラウドへの移行をご検討の際は、ぜひお気軽にお問合せください。

8. まとめ

ガバメントクラウドとは、政府が運営する共通のクラウド基盤を活用し、各自治体の行政サービスを標準化・効率化する取り組みです。政府は2025年度末までに全自治体の基幹業務移行を目指していますが、移行期間が限られているため、各自治体には計画的かつ迅速な対応が求められます。

総務省やデジタル庁が公開している資料や専門企業のサポートを活用して移行を進めるとともに、ガバメントクラウドを活用した新しい価値創出を実現しましょう。