教育クラウドとは?導入メリットや方法、注意点を解説

教育クラウドとは?導入メリットや方法、注意点を解説

近年多くの企業でクラウドの利活用が進んでおり、教育現場も例外ではありません。クラウドを活用して、よりよい教育環境を整備するさまざまな取り組みがおこなわれています。

今回は、教育現場におけるクラウド活用のメリットや注意点とともに、具体的な導入方法や活用事例をご紹介します。

目次

  1. 教育現場におけるクラウドとは
    1. 1.1. クラウドの仕組み
    2. 1.2. 教育現場においてクラウドが重視される背景
      1. 1.2.1. 働き方改革の観点
      2. 1.2.2. データ連携の観点
      3. 1.2.3. レジリエンスの観点
  2. 教育現場においてクラウドを導入するメリット
    1. 2.1. 【Savable】運用負担・コスト管理を軽減ができる
    2. 2.2. 【Secure】安全にデータを保存・活用できる
    3. 2.3. 【Scalable】環境の変化に順応できる
    4. 2.4. 【Seamless】どの環境でも切れ目なく活用できる
  3. 教育クラウド導入時に注意すべきポイント
    1. 3.1. ネットワーク環境の整備が必要
    2. 3.2. セキュリティ対応が必要
    3. 3.3. 個人情報保護の取り扱いが必要
  4. 教育クラウド導入の流れ
    1. 4.1. 【STEP1】準備:情報収集をおこなう
    2. 4.2. 【STEP2】計画:導入仕様の検討をおこなう
    3. 4.3. 【STEP3】調達:調達範囲を検討する
    4. 4.4. 【STEP4】運用:運用ルールを確定する
  5. 学術情報ネットワーク「SINET(サイネット)」の活用
    1. 5.1. 学術情報ネットワーク「SINET」とは
    2. 5.2. SINETの特徴とメリット
      1. 5.2.1. 国内・国外でも安定した回線
      2. 5.2.2. 快適なアクセス環境を構築
      3. 5.2.3. 多様なサービスの設計・構築を支援
    3. 5.3. SINETのクラウド接続サービスを利用するには
  6. ネットワークサービスの導入・活用事例
    1. 6.1. 安定的な通信環境を確立(柳川高校さま)
    2. 6.2. プロ仕様のゲーミング環境を構築(仰星学園高等学校さま)
  7. まとめ

1. 教育現場におけるクラウドとは

まずクラウドとは何か、なぜ教育現場においてクラウドの利活用が進められているかを解説します。

1.1. クラウドの仕組み

「クラウド」とは、ネットワークを通してデータやソフトウェア、コンピューターリソースなどを利用する仕組みです。

以前は、スペース・設備・機器を自組織で用意して利用する「オンプレミス」と呼ばれる仕組みが一般的でしたが、現在ではクラウドを活用して必要なリソースを必要な分だけ利用する方法が広まりつつあります。

クラウドは、利用区分やサービス内容によっていくつかの種類に分かれています。代表的なクラウドサービスは以下でご紹介しているので、あわせてご参照ください。

1.2. 教育現場においてクラウドが重視される背景

教育現場においては、多様な資質・能力を持つ子どもたち一人ひとりに個別最適化された教育をおこなうための「GIGAスクール構想」が、文部科学省によって推進されています。
そのGIGAスクール構想のもと、以下の観点で校務改革をおこなうべく、クラウドの利活用が進んでいます。

働き方改革の観点

働き方改革の観点では、クラウドツール活用による業務効率化およびコミュニケーション効率化、ロケーションフリーな校務の実現のためにクラウドが利活用されています。

例えば、クラウドを活用して以下のような働き方改革を実現できます。

  1. 職員間の会議や資料共有をオンライン化し校外からでも対応できるようにする
  2. 会議や決裁の資料、保護者へのお便りなどをデジタル化し無駄な紙印刷や押印を減らす
  3. 生徒や保護者へのアンケートや面談日程調整などをデジタル化し情報収集・調整にかかる時間を短縮する

これまで大きな時間が取られていた事務作業や校内・校外の関係者とのコミュニケーションを効率化するとともに、さまざまな校務を社外からでも実施できるような環境整備が進められています。

データ連携の観点

データ連携の観点では、校務系や学習系のシステム間でデータをリアルタイムに連携させ、教育データを可視化したりデジタル技術を積極的に取り入れることで、DXによる教育現場や制度の質を改善する教育環境高度化への取り組みが進められています。

例えば、出欠状況や学習進捗、成績、健康診断結果、指導要録などは生徒一人ひとりのデータを管理する必要がありますが、現状は各データを別々の紙媒体やシステムで管理しているケースが多い状態です。
こうしたデータをクラウドで集約・連携して一つのダッシュボードにすることで、生徒の情報をすぐに確認して教育現場に反映できるだけでなく、学校経営における各種分析・判断もしやすくなります。

レジリエンスの観点

レジリエンス(※)の観点では、大規模災害などが発生した場合でも業務を継続できる環境の実現に向けた利活用が進んでいます。
※回復力や復元力を意味する言葉。ビジネスにおいては有事の際の事業継続性・復旧力を指す。

オンプレミスの大きな課題である災害による設備や機器の物理的な破損を防ぎ、クラウドを活用してデータの保全や業務の継続を図る取り組みが求められています。

リスクを想定し、事前にBCP対策を立てておくことが重要です。BCP対策については以下でご紹介しているので、あわせてご参照ください。

2. 教育現場においてクラウドを導入するメリット

教育現場においてクラウドを導入するメリット

教育現場にクラウドを導入することで得られるメリットは、4つのS(Savable・Secure・Scalable・Seamless)で表されます。それぞれ詳しく解説します。

2.1. 【Savable】運用負担・コスト管理を軽減ができる

Savableとは「救助できる」「節約できる」を意味する言葉です。

クラウドであれば、システムの運用に必要となるソフトウェアの更新やセキュリティ対策などをサービス提供事業者に任せることができます。
また、多くのクラウドサービスは個別のアプリをインストールせずに利用できるため、ブラウザさえインストールしておけば利用できます。アプリが不要な分、設定やアップデート対応などの運用負担を削減できるでしょう。

コスト面においても、クラウドは端末やシステムの導入・運用・管理コストが不要です。また複数の組織でクラウド環境を共同利用することで、オンプレミスと比べて経済的に活用できます。これまでオンプレミスが一般的だった協働学習支援ツールをクラウドで構築することで、サーバーの準備やインストールの手間を削減できるかもしれません。

2.2. 【Secure】安全にデータを保存・活用できる

Secureとは、「データの安全な利活用」を指します。

校務で取り扱うデータには個人情報が多く含まれるため、情報の漏洩や改ざんが発生しないよう細心の注意を払う必要があります。また、大規模災害などが発生してもデータが破損せず、継続的に利用できることが重要です。

クラウドであれば、データは「データセンター」と呼ばれる専用の設備で厳重に管理され、バックアップの取得やデータの分散管理も簡単におこなえます。こうしたメリットをもとに、セキュリティポリシーを策定し、クラウドを適正かつ効果的に活用する取り組みを進める自治体が増えています。

2.3. 【Scalable】環境の変化に順応できる

Scalableとは、「拡張可能な」「拡張性のある」を意味する言葉です。

従来のオンプレミス環境では、データ量が増えたり新しいソフトウェアを追加したりすると、その分のストレージやサーバーを増設する必要がありました。
一方クラウドであれば、契約内容を変更するだけでストレージやサーバーなどの拡張が可能です。オンプレミスでの拡張と比べてコストとリードタイムを削減でき、生徒数やデータ量の増減に合わせて柔軟な運用ができるようになります。
また、小規模環境から導入・検証し、徐々に規模を拡大していくことも可能です。

2.4. 【Seamless】どの環境でも切れ目なく活用できる

Seamlessとは、「縫い目のない」「途切れない」を意味する言葉です。

クラウドは基本的にインターネットを経由して利用するものであり、インターネットに接続できる環境であればどこからでも利用できます。校内や校外、家庭といった場所による違いがあっても、隔たりなく利用できる点がクラウドの大きなメリットです。

実際、家庭でも利用できるクラウド教材を整備する動きや、クラウドに校務のプラットフォームを構築して教員が校外から校務をおこなえるようにする動きも増えています。

3. 教育クラウド導入時に注意すべきポイント

DX教育クラウド導入時に注意すべきポイント

ここまでご紹介してきたように、教育現場にクラウドを導入することで得られるメリットは数多くあります。しかし同時に、クラウドを導入する際に注意すべきポイントも抑えておく必要があります。その3つのポイントを解説します。

3.1. ネットワーク環境の整備が必要

クラウドはネットワーク経由で利用するものであり、利用には安定したネットワーク環境が欠かせません。しかし、ひと口にネットワーク環境といっても、必要とする通信速度や接続拠点、セキュリティ対策などによって、どのようなネットワークを構築すべきかが変わる点に注意しましょう。

QT PROでは、「QT PRO VLAN」をはじめとした最適なネットワークソリューションをご提案しています。クラウド導入に向けた利便性の高いネットワーク環境のために、こうしたサービスの利用を検討してはいかがでしょうか。

3.2. セキュリティ対応が必要

クラウドのメリットとして、セキュリティ対策をサービス提供事業者に任せられる点を挙げました。
しかし、それはあくまでクラウド上のセキュリティであり、端末や利用方法に関するセキュリティ対策は別でおこなう必要があります。不審なサイトを閲覧してウイルスに感染した、校外利用時に情報漏洩や盗難が発生したといった被害を防ぐため、生徒や教員に対してセキュリティ教育をおこないましょう。

QT PROでは、実践的な標的型メール訓練やセキュリティ研修のサービスをご提供しています。セキュリティ意識を高めるサービスを活用し、クラウド導入の前にITリテラシーの向上を図りましょう。

3.3. 個人情報保護の取り扱いが必要

校務で取り扱う情報には生徒の個人情報が多く含まれ、管理には十分注意する必要があります。

クラウドでは校外の見えない場所に情報を保存することになるため、生徒の保護者も不安になりやすいものです。利用するクラウドサービスの規約やセキュリティポリシーを確認し、保護者にも十分な説明をおこなったうえで同意を得るようにしましょう。
校内でセキュリティポリシーを策定し、適正なクラウド利用ができるようにする取り組みも重要です。

4. 教育クラウド導入の流れ

教育クラウド導入の流れ

では、実際に教育現場にクラウドを導入するにはどのような流れで進めればよいのでしょうか。総務省の「教育ICTガイドブック Ver.1」「クラウド導入ガイドブック」に沿って解説します。

4.1. 【STEP1】準備:情報収集をおこなう

クラウドにはさまざまなサービスがあるため、目的や課題に合わせて適切なサービスを導入する必要があります。まずは準備段階として、クラウド導入の目的と課題を明確にしましょう。

目的と課題が明確になったら、それに対応したクラウドサービスの機能や金額でサービスを絞り、通信事業者のサービス範囲やサービスレベルを確認しましょう。

4.2. 【STEP2】計画:導入仕様の検討をおこなう

目的と課題を明確にしてサービスを選定したら、より具体的に導入時の仕様やスケジュールを検討します。

クラウド導入時には、ネットワークの設計、サーバーのOSやスペックの検討などが必要になります。活用イメージが明確になっていれば、事業者と相談しながら計画を立てていくことができるでしょう。

4.3. 【STEP3】調達:調達範囲を検討する

次に、調達範囲や事業者の選定方法を検討し、それに合わせた予算を確保します。

調達範囲には一括調達と分離調達があります。一括調達は、分離調達と比べて一つの事業者に一貫して対応をおこなってもらえる反面、専門性に欠ける事業者が選定された場合のリスクが高まります。一定のサービス品質を担保できるよう、事業者とサービスレベル契約(SLA)を締結することも重要です。

4.4. 【STEP4】運用:運用ルールを確定する

クラウドの利活用を推進する際には、運用ルールを整備して生徒や教員が迷いなく利用できる状態を作ることが大切です。利用方法や設定方法のマニュアルなど、基本的な運用ルールを定めることに加え、セキュリティインシデントや障害発生時の窓口・連絡ルートなども明確化しておきましょう。
また、最適な運用方法は運用フェーズによって変わるため、定期的に運用ルールの見直しをおこないましょう。

5. 学術情報ネットワーク「SINET(サイネット)」の活用

学術情報ネットワーク「SINET(サイネット)」の活用

ここからは、大学向けに安定したネットワーク基盤を提供している「SINET(サイネット)」について、特長や利用方法を解説します。

5.1. 学術情報ネットワーク「SINET」とは

「SINET」とは、日本全国の大学や研究機関などで学術情報を共有し、さまざまな研究分野における連携力を強化するために、国立情報学研究所(NII)が運用しているネットワークです。研究およびそれに付随する教育用途専用のネットワークとなっています。

類似するネットワークとしては、行政専用の相互連携ネットワークであるLGWAN(総合行政ネットワーク:Local Government Wide Area Network)が知られています。

5.2. SINETの特徴とメリット

国内・国外でも安定した回線

SINETでは研究・教育データを取り扱うため、大容量の通信にも耐えられるような設計がなされています。国内通信では現行100Gbpsの回線ですが、将来的には世界最高水準である400Gbpsまで増強される見込みとなっています。
また国外通信においても、米国回線が100Gbps×2、アジア回線が100Gbps×2、欧州回線が100Gbps×4と、国内・国外ともに安定した通信を実現できる環境になっています。

快適なアクセス環境を構築

回線速度に加え、SINETではさまざまなロケーションで快適に活用するための取り組みもおこなわれています。
例えば接続地点には全国70箇所のデータセンターが設定されており、5Gで利用できるモバイルSINETも整備されています。

多様なサービスの設計・構築を支援

サービス面においても、ネットワーク仮想化技術を用いた制御・管理機能やSINETを通した研究データ基盤との連携など、各研究・教育機関をシームレスにつなぐサービスが提供されています。高機能な研究教育環境の構築支援がおこなわれている点もポイントです。

5.3. SINETのクラウド接続サービスを利用するには

SINETを利用するためには、NIIに対しサービスの新規加入申請を提出し、承認を得る必要があります。承認後はSINETの接続点から各サービスを利用できます。

QTnetデータセンターはSINETの接続点でもあるため、大学内のサーバー・ネットワーク機器類をQTnetデータセンター内に置くことで、回線費用不要でSINETに接続できます。

QTnetデータセンターおよびVLANサービスを活用して基幹サーバーをデータセンターに集約し、大学本部および付属校をVLANで結ぶ学校法人さまの事例もあります。これによりデータセンターからSINETに接続し高速大容量通信を実現するとともに、BCP対策や運用・保守コスト減などの効果も得られています。

QT PROでは、安定したサービス実績と万全のサポート体制、高信頼ファシリティと厳重なセキュリティを誇る「QT PRO データセンターサービス」を提供しています。学術向けとしてSINETへ接続ができ、SINETを利用したバックアップ拠点としてもご利用可能です。

6. ネットワークサービスの導入・活用事例

ネットワークサービスの導入・活用事例

最後に、ネットワークサービスの導入・活用事例をご紹介します。

6.1. 安定的な通信環境を確立(柳川高校さま)

福岡県柳川市の柳川高等学校さまは、全校生徒の3分の1を海外からの留学生とする「グローバル学園構想」と、デジタル社会で活用できるスキルを多角的に培う「スマート学園構想」の2大教育テーマを掲げています。
このテーマを実現するための地盤となるネットワーク環境構築のため、QT PRO インターネットアクセスを導入いただきました。

その結果、安定したネットワーク基盤の整備が実現し、新型コロナウイルス感染拡大の際も迅速にオンライン授業体制を確立。その後もICT教育の先進校としてさまざまな取り組みがおこなわれています。

6.2. プロ仕様のゲーミング環境を構築(仰星学園高等学校さま)

福岡県北九州市の仰星学園高等学校さまでは、将来の学校の活性化を視野に、2022年4月にeスポーツ部が創設されました。それを機に、将来的な対外試合を見据えた本格的なゲーミング環境の構築には高速かつ高品質なネットワーク環境が必要と考え、QT PROインターネットアクセスを導入されました。

eスポーツ部創設の反響は大きく、オープンスクールでも注目の的に。プロ仕様の環境のなか、eスポーツを通し協調性やコミュニケーション能力を磨く教育環境を実現され、入学希望者も増えています。

7. まとめ

GIGAスクール構想を追い風に、教育現場においても多様なクラウド活用の取り組みが進められています。クラウド活用によって経営を効率化・最適化することにより、自治体・学校ならではの新しい価値を提供することが求められる時代になったといえるでしょう。

クラウドの導入には多くのメリットがありますが、ネットワークやセキュリティ、個人情報保護の面では注意が必要です。クラウドを安全かつ最大限に活用するためにも、導入をご検討の際にはぜひお気軽にQT PROにご相談ください。