第11回 テレワーク導入を先導したのは外部要因の変化【佐賀県庁のご紹介】
公開:2019年3月25日
- ※本記事は2018年4月のメールマガジン配信記事です。
さて、前回は「テレワーク成功のための”三本柱”とは??」についてお送りしました。企業がテレワーク導入を検討する場合、成功させるために必要となるのは「インフラの整備」、「制度の整備」、「組織風土の醸成」という3つを整える必要があることをお伝えしました。上記3つの柱を支え強靭なものにするために、さらに3つの土台が必要だということも森本さんの話から理解することができました。
11回目は「テレワーク導入を先導したのは外部要因の変化【佐賀県庁のご紹介】」についてお送りします。今や「テレワークの第一人者」として知られる森本さん。こう呼ばれる理由は、テレワークを全国で先駆けて佐賀県庁に挿入し実行したことでした。しかし着任した当初はテレワークの導入を全く考えていなかったそう。では、どのような理由でテレワーク導入に踏み切ったのでしょう。経緯や実行にあたって直面した課題などについてお話いただきました。
今回も森本さんに伺っています。それでは、 お付き合いください。
目次
1. 20年も前から?!「テレワークは当たり前」マイクロソフト社時代
佐賀県庁で4000人もの職員にテレワークを導入した森本登志男さん。
しかし、「当初は、佐賀県庁に導入するなんて、テレワークの『テ』の字も考えていませんでした」と語る。それが、どういうきっかけで導入することになり、どのような経緯で実現させることができたのか。自治体という特殊性はあるにせよ、大きな組織にテレワークを導入するという点では企業にも参考になることが多い。今回から上下2回に分けて、佐賀県庁にテレワークが導入された過程を時系列で紹介したい。
森本さんは1995年から2011年までマイクロソフト社に在籍した。
日本と米国本社、さらに他国にいるスタッフとの間で会議やデータのやり取りをこなす中で「テレワークは普通の働き方として利用していました」という。2011年4月に佐賀県が公募した最高情報統括監(CIO)に選ばれて佐賀県庁職員として着任。森本さんで3代目のCIOの役割は、さまざまな分野でICT(情報通信技術)を活用して改革を遂行することだった。具体的には庁内の業務改革、SNSを使った県民への情報発信、テレビの地デジ化対応、広域高速インターネット網の整備などだ。
先に述べたように森本さんはテレワーク導入などまったく念頭になかった。「IT企業と違って保守的な自治体のテレワークはずっと先の話」と思っていたからだ。
2. 決断のきっかけは「東日本大震災」や「iPad発売」も
しかし、さまざまな状況が森本さんにテレワーク導入を決断させた。
1つ目は、2009年に流行した新型インフルエンザと2011年に発生した東日本大震災。これらの出来事によって、災害時における企業や自治体の業務継続の重要性がクローズアップされた。佐賀県でも事業継続計画(BCP)を策定したが、登庁しない(できない)職員がどうやって業務ができるかが新たな問題として出てきた。
2つ目は第2次安倍内閣(2012年12月発足)が打ち出した女性活躍推進政策。県庁では女性職員が少ないうえ、出産・育児に伴う離職の問題もあった。打開策として先進的に導入した在宅勤務制度の利用も伸び悩んでいる。さらに、親の介護による離職を防止する方策にも迫られていた。
一方、米国Apple社のタブレット端末「iPad」が2010年に発売。翌年4月には佐賀県が急患の搬送先病院の受け入れ状況をWebで〝見える化〟するシステム「99さがネット」を導入、救急車にiPadを配備して搬送時間短縮に効果を上げた。これでICTの有効性が県庁内に浸透していったという。
森本さんは「こうした複数の外的要因がテレワーク導入を後押ししたんです」と当時を述懐する。
3. 「3人のミスターテレワーク」が現れて、急加速
前段で述べたさまざまな問題の所管は主に人事部門。そのため、担当者が情報部門へたびたび相談に訪れていた。
森本さんの席は情報部門の部屋にあったため、相談内容は自然と森本さんの耳にも入ってくる。その森本さん自身も古川康佐賀県知事(当時)からWebテレビ会議の利用率アップの特命を受け、思案中だった。
問題意識を共有する人事と情報の部門担当者、森本さんのネットワークができ、それが佐賀県庁のテレワーク導入の「核」となっていく。
「情報部門の職員は元民間企業のITエンジニアという経歴でした。その彼と、相談に来ていた人事部門の係長、後に加わる業務改革部門の係長、この3名が〝ミスターテレワーク〟と呼んでもいいキーパーソンです」と森本さん。彼らの話し合いの中から柔軟な働き方を実現する手段としてテレワークの構想が出て、2012年秋ごろ推進チームが発足したという。
「私は彼らの作ったみこしに乗っただけ」と森本さんは謙そんする。だが、CIOという立場の森本さんがチームに加わり後ろ盾となったことで、構想は急速に実現化の色を帯びてきた。
4. 一斉に100台を配布、実証実験がスタート
ここまでの経過で重要なのは、問題解決へのアプローチが現場責任者から始まり、それがテレワーク導入へとうまくつながったことだ。トップダウンのスタートだったり、テレワークそのものが目的となったりすると導入がうまくいかないことが多い。佐賀県庁のケースは、連載10回目で指摘したテレワーク導入に必要な要素のうち「目的の明確化」と「成功イメージ」の共有が自然と出来上がっている。
また、それに呼応するエキスパート(森本さん)のアドバイスや指導があったことも大きい。もうひとつの要素である「組織体制の確立」も、人事と業務改革、情報の3部門の現場責任者、彼らを統括する幹部(森本さん)というメンバーが組み上がっていた。
2013年4月、佐賀県庁で「モバイルワーク推進実証事業」がスタートした。目的は(1)各部署でモバイル端末が活用される可能性の把握(2)技術的あるいは業務的課題の収集(3)端末数や仮想デスクトップ環境の導入規模の検討(4)管理者層のテレワーク体験―など。
その具体策として同年8月1日、県庁35部署にモバイル端末100台を配布。実証実験がいよいよ始まった。
あとがき
世界のIT分野をリードするマイクロソフト社では、テレワークは当たり前。世界各国のスタッフとやり取りすることを考えれば不思議ではありませんね。この回を読めば、これまで森本さんに話していただいた1~10回目までの内容とリンクしていきます。連載2回目や10回目に出てくる「インフラ整備」、「組織風土の醸成」、連載5回目の「災害時こそテレワーク」、6回目の「社内の抵抗勢力」など、もう一度読み返してみると森本さんが警告や強調されていたことが「そういうことだったのか」と改めて理解できそうです。
第12回は「テレワーク成功のメソッド【佐賀県庁のご紹介】後編」次回も、佐賀県庁へのテレワーク導入にあたって、森本さんがどのように進めていったのかをお伝えします。ミスターテレワークら3名がメンバーとなり、加速していくテレワークの本格導入。全国で先駆けて行政が取り組んだ「テレワークの導入」の一部始終がわかります。次回もお楽しみに!