第10回 テレワーク成功のための”三本柱”とは??
公開:2019年3月25日
- ※本記事は2018年4月のメールマガジン配信記事です。
さて、前回は「テレワークが就活生に〝刺さる〟わけとは?【企業の求人解禁】」についてお送りしました。働き方改革というワードの社会的認知によって「テレワーク」という働き方が就活生に注目されているという話でしたね。マイナビ大学生就職意識調査が調査によると「個人の生活と仕事を両立させたい」との回答が5年連続で増加。ワークライフバランスを条件の一つとして考えていることがわかりました。
10回目は「テレワーク成功のための”三本柱”とは??」についてお送りします。就活生も重視している「テレワーク」、採用する企業側は導入を検討する段階にきているわけですが、導入に向けてどのような準備が必要なのか、成功させるための「三種の神器」について伺いました。今回も森本さんに伺っています。それでは、 お付き合いください。
目次
1. 成功に導く三種の神器「場所を選ばず仕事ができる環境」
三種の神器、三本の矢、仏の顔も三度、石の上にも三年……私たちにとって「3」という数字は「大切なもの3つ」を表現する際に使われることが多い。実はテレワークを導入するときにも、整えなければならない重要な3つの要素があるという。テレワーク導入の第一人者で元佐賀県最高情報統括監(CIO)の森本登志男さんに、今回は導入を成功させる〝三種の神器〟について語ってもらった。
1点目は「インフラ整備」だ。森本さんは「テレワークとはひと言でいうと社外のいろいろな場所で仕事ができるようにすることです。それには、外でデータを扱えたり、保存できたりするICT(情報通信技術)の仕組みやツールが不可欠。それがインフラです」と説明する。
具体的には通信機能を備えたノートPC、タブレットなどのモバイル端末、スマートフォンといった機器、それらにインストールするメール、チャット、Web会議などのアプリケーション、安全にテレワークするためのセキュリティの整備を指すだろう。「それらをいかに適材適所で使えるように環境を整えていくか、いわば技術まわり、物まわりの整備です」と森本さん。
2. 成功に導く三種の神器「明確なルールの整備」
2点目は「制度整備」。これも森本さんが分かりやすく説明してくれた。
「今までのようにタイムカードを押して会社にいる間だけが仕事の時間という決まりを解き放って、業務をしていたらどこにいても勤務と認める。それを制度として決めることです」。どこからどこまでを勤務として認めるというルールが曖昧だと、働き方が不公平になり、自宅での仕事がサービス残業になってしまう。
ルールを整備すると上司の判断基準が明確になり、テレワークの許可が出しやすくなる。制度的な整備は就業時間や場所だけでなく、データを扱うセキュリティのガイドラインなども必要となってくるだろうし、全社的な規則だけでなく、部署ごとの働き方に合わせた細則も必要になってくるかもしれない。
森本さんは、1点目の「インフラ整備」と2点目の「制度整備」には相互関係があるという。インフラ整備の状況に応じてテレワークのできる範囲が変われば、それに伴う制度整備も変わってくるからだ。「インフラと制度はどちらが先行するものではなく、常に相談しながら、並行的に進めていくのが良いでしょう」と森本さんはアドバイスした。
3. 成功に導く三種の神器「在宅勤務しますと言える雰囲気づくり」
「インフラと制度を整えれば、とりあえずテレワークはスタートできます。
しかしそれだけでは普及しません。もう1つ、最も大事な点があります」。森本さんが強調するのが3点目「組織風土の醸成」である。この3点目で失敗したのが、テレワーク連載2回目で紹介した佐賀県庁の例だ。インフラと制度は整っていたが、在宅勤務制度の実施率は低調。森本さんがCIOとして組織風土の醸成に力を入れ、全庁のテレワークを実現した。
「組織風土の醸成」とは、「簡単にいえば『今日在宅勤務します』と従業員が言いやすいか言いにくいか、という点に尽きます」。森本さんの説明は明快だ。
その鍵を握るのが管理職だと森本さんは指摘する。そのため、佐賀県庁ではテレワークの試行時に全部長職に週1回のテレワークを義務づけた。管理職が経験していないと、部下の働き方が想像できないからだ。「部下が外で何をしているのか、サテライトオフィスってどんなところか、ネットで遊んでいるのではないか……経験のない管理職はそう思ってしまうんです。自ら経験して『テレワークいいな、私もやろうかな』と腹に落ちることが大事です」と森本さんは狙いを語る。
4. 強靭なテレワーク制度にするために欠かせないもの、教えます
インフラ整備と制度整備、組織風土の醸成、この3点に先だってやっておくべきことがさらに3点ある。これが「目的の明確化」「成功イメージの共有」「組織体制の確立」だという。
「目的の明確化」とは、何のためにテレワークをやるのかを明確にしておくこと。「成功イメージの共有」はどんな効果が現れるのかの具体像を関係者で共有すること。
森本さんは「この2点は、迷ったり意見が分かれたりしたときの、立ち帰るべき原点となります。インフラや制度の整備、組織風土の醸成は一筋縄ではいきません。目的と成功イメージが明確でないと、現実の重みに押されて後退していくことになります」と、大切さを語る。
最後の1点「組織体制の確立」は繰り返し述べてきたように、テレワーク推進のエンジンとなるグループだ。組織のイメージは、人事、経営企画、システムの3部門が基本で、それを統括する役員、テレワークを利用するユーザー部門が入れば理想的。「全員の働き方にかかわる改革ですから、複数の部署で構成することが大事。初期段階から各部署の目で課題や問題を抽出しながら進めると、ストレスが少なくて済みます」と森本さんはアドバイスする。
家に例えると、基礎にあたるのが目的の明確化、成功イメージの共有、組織体制の確立、その上に建つ柱がインフラ整備と制度整備、組織風土の醸成だろう。これらがきちんとしていれば、強靱(きょうじん)なテレワーク制度が構築できるに違いない。
あとがき
テレワークに必要な「三種の神器」のうち、最も大切なのが「組織風土の醸成」とのこと。佐賀県庁時代にテレワークが浸透しなかった原因は「組織風土の醸成」ができていなかったことでしたね。森本さんは自らの経験から、ICT技術の整備や、制度の改定や制定をいくら行っても「今日は在宅勤務します」と言える雰囲気がなければ、テレワークを実行する社員がいないことを教えてくれました。社員がテレワークを行える雰囲気づくりが大切。「管理職からスタート」することが鍵だということも覚えておくと良さそうです。
第11回は「テレワーク成功のメソッド【佐賀県庁のご紹介】前編」次回は、佐賀県庁へのテレワーク導入にあたって、森本さんがどのように進めていったのかをお伝えします。2011年に着任した当初、テレワークの導入を考えていなかったと話す森本さん。では、どうしてテレワーク導入に踏み切ったのでしょうか。その経緯や実行していくにあたって直面した課題をどのように対応していったのか……。全国に先駆けて行政にテレワークを導入した過程について、前編・後編に分けてお伝えしていきます。
次回もお楽しみに!