第5回 災害やパンデミック時にどう事業を継続しますか?〜答えはテレワークにあり
公開:2019年3月25日
- ※本記事は2018年1月のメールマガジン配信記事です。
さて、前回は「仕事か家庭か」人生の二者択一をテレワークが解放!「択一」から「両立」へ」についてお送りしました。自身や家族の出産や病気、介護によって「仕事か家庭か」判断を迫られる事態に直面してもテレワークが備えてあれば、働き続けたい人が休職や離職をせずに働き続けることが可能となるという話でしたね。「いつ自分が当事者となる」か誰にも予測できませんが、テレワークがあれば、働き手の「セーフティネット」に。そして企業側も優秀な人材の流出を防ぐことにつながるというお話でした。
5回目になる今回は「台風や大雪など自然災害時こそ、テレワークが有効である」という話をお送りします。
この数年「数十年に一度の」「これまでに経験のない」など、政府や気象庁からの特別警報を耳にすることが増えてきました。甚大な被害が出た「東日本大震災」では、岩手、宮城、福島の被災3県で約69万人が離職や休職に至ったと総務省のデータで出ています。容易に想像できないほどの数字ですね。あれから数年、災害時のテレワーク活用でどのような対応ができるようになったのか……。
今回も森本さんに伺っています。それでは、
お付き合いください。
目次
1. 東日本大震災でクローズアップされたBCP(事業継続計画)
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、北海道から関東までの太平洋沿岸部を中心に大きな人的・物的な被害をもたらした。と同時に、多くの企業にBCP(事業継続計画)の問題を突きつけた。BCPとは地震などの自然災害や感染症の大流行(パンデミック)といった非常時に、企業の事業継続や早期再開の仕組みを整えておくことである。東日本大震災を契機に、BCPの不備あるいは重要性がクローズアップされたのだ。
震災後に発表された総務省の2012年度版「情報通信白書」によると、地方公共団体の33.5%、民間企業の10.9%が「これまでBCPは未策定だったが、東日本大震災を契機に策定を検討中」と回答していることからも、関心のほどがうかがえる。」
テレワーク啓蒙の第一人者、森本登志男さんは「こうした非常時こそ、働く場所を選ばないテレワークの効果が、事業継続にも発揮されます」と強調する。
この回では、森本さんが佐賀県最高情報統括監時代に体験した3つの非常時を通して、テレワークがBCPにどう役立つのかを紹介したい。
2. 土曜日に鳥インフル発生、その時、職員たちのとった行動は?
佐賀県庁では2014年10月、森本さんらの尽力で職員4,000人分の仮想デスクトップ環境が完成、約1,000台のタブレット端末を配布してテレワーク環境が整った。
そのわずか3カ月後の2015年1月17日、佐賀県有田町の養鶏場で鳥インフルエンザの陽性反応が出た。この日は土曜日で、職員はほとんど登庁していない。もし鳥インフルなら消毒、殺処分などの防疫措置を速やかにとらねばならない。担当部署だけでなく、県庁挙げての作業になる。このとき、仮想デスクトップを構築するサーバーへのアクセスが急増したという。「これはテレワーク環境を活用して、職員が登庁することなく自宅や外出先からサーバー上に保存してある鳥インフルエンザ対応マニュアルを確認したり、上司や同僚、部下と連絡を取り合ったりしたからです」と、森本さんは話す。
もしも、テレワークがなかったらどうなっただろうか。森本さんは「鳥インフルエンザのマニュアルは担当部署以外の人はほとんど見たことがないでしょう。マニュアルや非常時の勤務シフトを確認するため登庁しなければならない。マニュアルも部数がないでしょうから印刷し、製本する必要もある。
それから準備をして現場に向かっていれば、相当な時間的ロスが生じます」。
3. 台風や大雪ー災害時にテレワークの効果を実感
2015年8月には台風15号が九州を縦断し佐賀県にも接近、職員の通勤に影響が出た。さらに2016年1月には九州地方で記録的な大雪となって各地で交通網が寸断、その影響は翌日まで続いた。いずれも自然災害で職員が登庁できないというケースだったが、この時もテレワークが活躍した。
台風の際は、午前5時ごろからサーバーへのアクセスが始まり、平日のピーク時の倍以上になる300もの接続が確認された。通勤の難しい職員、子どもが休校・休園となって面倒をみなければならない職員たちが在宅勤務に切替えてサーバー経由で仕事をしたためだ。
サテライトオフィスが効果を発揮したのは大雪の時だ。路面が凍結、迂回路も渋滞したため登庁を諦めた職員が武雄や唐津、鳥栖、伊万里などの県事務所内に設けられたサテライトオフィス(県内13カ所)に行って仕事をした。森本さんが登庁すると、出てきた職員が登庁できない職員とタブレット端末でテレビ会議をやっている光景をあちこちで見かけたという。
「官公庁の場合、災害などの非常時こそ緊急対応の業務が増え、業務の停滞が許されません。それを乗り越えられたのはテレワークのおかげでした」。森本さんはそう強調した。
この3つの非常時を経験したことで、県庁職員はテレワークの効果を実感し信頼を強めたという。
一方、日本は世界に例を見ないほどの少子高齢化が進んでいる。生産年齢人口(15歳〜64歳)は減少し、75歳以上の人口は増加するとの推計がある中で、出産、育児、介護などのライフイベントが降りかかれば、今後フルタイムで働ける人はますます少なくなるだろう。
企業も働き手を確保するため、潜在的な労働力を発掘して顕在化する必要に迫られてくる。
4. テレワークを非常時に活用するために大事なことは?
東日本大震災では役所や企業に保管されていた紙資料の被災や消失、PC内のデータ破損が多く発生し、クラウド上でのデータ管理が意識されるようになった。また、電話回線の機能が失われるなか、稼働を続けたツイッターなどのインターネット上サービスの有用性も注目された。クラウドもインターネットもテレワークには欠かせないICT(情報通信技術)のため、それらを活用したテレワークは必然的に災害にも強い仕組みといえる。
「ただしテレワークはあくまでも手段であり、それ自体は目的ではありません。テレワークを何に使うのか、そのためには何をしておけばいいのか、組織や個人で想像力を働かせた事前準備が必要です」と森本さんは釘を刺す。例えば、佐賀県庁が鳥インフルエンザの発生にいち早く対応できたのは、事前に対応マニュアルを整備し、それをデジタルデータとしてサーバー上に閲覧可能な状態で保存していたからだ。
「転ばぬ先の杖」ということわざがあるが、テレワークをBCPのツールとして十分に活用するためには、他の災害対策と同じように平時からの周到な準備が必要不可欠なのである。
あとがき
自然災害やパンデミックなど、人々の命に関わる事態では一刻も早く対策を考えて実行する体制を整える必要があります。こうした非常事態でもテレワークができる環境が構築されていれば、速やかに連携して解決に向かうことができるんですね。これらを企業にあてはめると事業の停滞防止につながるということ。また、ライフラインや生活に関わるような事業の場合、人命や地域社会を守ることにもつながります。台風や豪雨、大雪、地震と自然災害の多い九州だからこそテレワークの導入が心強いツールとなりそうです。
第6回は「担当者必見、社内の抵抗勢力はどこにいる?」次回はテレワーク導入を阻む「抵抗勢力」についてお送りします。テレワークというとこれまでの働き方と違う体制を整える必要があるため「労務担当者」や「システム担当者」が反対しそうなイメージでしょうか。一体どのようなところに抵抗勢力がいるのか注意深く見ていきましょう。
次回も森本さんに興味深い話を聞いていきます。お楽しみに!